解答例
まず,夫婦同姓は日本の伝統であるとの意見があるが,これは誤りである。 そもそも平民が姓を使用し始めたのは明治維新後であり, 明治9年3月17日太政官指令においても夫婦別姓が定められており, 日本における夫婦同姓の伝統について論ずることはナンセンスである。
次に,夫婦同姓は現代の社会に適合しているとは言い難い。 現在の民法が制定された昭和22年時点では同法750条の規定は憲法24条に適合していたかもしれないが, 近年は女性の社会進出が著しく,姓の変更に伴う社会的不利益に鑑みれば夫婦が同等の権利を有しているとは言えない。 旧姓を通称として使用することによりこれらを解消することが可能かもしれないが, 現行制度において公文書に通称を用いることはできず,通称と戸籍で姓が異なるという新たな問題も生じる。
また,姓の同一性は家族の一体感に必要であるとの意見は, 家族間においては姓ではなく名を呼び名として使用することを考慮すると, この指摘は的を得ていないと言わざるを得ない。
さらに,我が国と同様に夫婦同姓を定めていたドイツやタイなどの海外諸国においても近年夫婦同姓制が導入されており, 例外を一切認めない夫婦同姓を定めている国は我が国を除いてほとんど見当たらない。
他に,国際的な動きとして女子差別撤廃条約が挙げられるが, これを受けて設置された女子差別撤廃委員会からも民法750条の規定の改廃が要請されるに至っている。
以上のような状況は,民法750条の規定から直ちに生じているとは言えないかもしれないが, しかしそのことは例外を一切認めない夫婦同姓制を合理化する理由とはならない。 すなわち,憲法24条1項に定める通り合意に基づいているとしても, それ自体は夫婦同姓の例外を許さないことの理由にはなりえない。
上記の理由により,民法750条に定めるところの夫婦同姓制は違憲であると判断される。
備考
この解答例は,試験時に実際に回答したものです。 ただし,明らかな事実に誤りについては訂正してあります。